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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)321号 判決 1999年5月31日

東京都港区南青山2丁目1番1号

原告

本田技研工業株式会社

代表者代表取締役

吉野浩行

訴訟代理人弁理士

佐藤辰彦

鷺健志

本間賢一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

玉城信一

森川元嗣

田中弘満

小林和男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成6年審判第20751号事件について、平成8年11月15日にした補正の却下の決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年6月2日、名称を「車体のサブフレーム」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をし(実願昭63-73476号)、平成6年3月23日、願書に最初に添付した明細書につき補正(以下「本件補正」という。)をしたが、平成6年11月15日に拒絶査定を受けたので、同年12月14日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成6年審判第20751号事件として現に審理しているところ、平成8年11月15日に、本件補正につき、「平成6年3月23日付けの手続補正を却下する。」との補正の却下の決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、平成8年12月4日、原告に送達された。

2  本件補正の内容

本件補正は、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)につき次の補正をすることを含むものである。

(1)  実用新案登録請求の範囲の請求項第1項の「両端が車体に取り付けられて該車体の横方向に配置されるサブフレーム本体の両端部に設けたリンク取付部に、サスペンションのラテラルリンクが取り付けられて、該ラテラルリンクからの横入力を受ける板金製の車体のサブフレームにおいて、前記サブフレーム本体を、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成したことを特徴とする車体のサブフレーム。」との記載、及び同第2項の「前記リンク取付部を、前記フロントロア及びリヤロアに一体形成したことを特徴とする請求項1記載の車体のサブフレーム」との記載を、請求項第1項「両端が車体に取り付けられて該車体の横方向に配置されるサブフレーム本体の両端部に設けたリンク取付部に、サスペンションのラテラルリンクが取り付けられて、該ラテラルリンクからの横入力を受ける板金製の車体のサブフレームにおいて、前記サブフレーム本体における横方向略中央部の前後方向垂直断面が、上部のアッパーパネル、下部前方のフロントロアパネル及び下部後方のリヤロアパネルにより囲まれる閉鎖型断面とされ、前記リンク取付部は、前記フロントロアパネルまたは前記リヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成されることを特徴とする車体のサブフレーム。」との記載に補正すること、

(2)  考案の詳細な説明の「ラテラルリンクが取り付けられるリンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成するとよい。」(当初明細書5頁11~13行)、「リンク取付部はフロントロアとリヤロアに一体形成される。」(同6頁4~5行)、「サブフレーム本体20の両端部にラテラルリンク9が取り付けられるリンク取付部21を設けて成る。」(同8頁7~9行)、「突出壁30、31及びスペーサ32により、リンク取付部21が構成され、これにより、リンク取付部21がフロントロア23とリヤロア24に一体形成されている。」(同9頁14~18行)、「リンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成したから、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい。」(同12頁9~12行)との各記載を削除すること、

(3)  考案の詳細な説明に「前記リンク取付部は、前記フロントロアパネルまたは前記リヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成される」(手続補正書添付明細書4頁21~22行)、「前記リンク取付部は、前記フロントロアパネルまたは前記リヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成される。」(同5頁15~16行)、「リンク取付部がフロントロアパネルまたはリヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成されているので、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい」(同8頁25~28行)との各記載を付加すること、

以上の補正(注、当初明細書記載の「アッパーハーフ」、「フロントロア」、「リヤロア」は、それぞれ補正に係る明細書記載の「アッパーパネル」、「フロントロアパネル」、「リヤロアパネル」に当たるものと認められる。)により、当初明細書には、リンク取付部がフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成されるものは記載されていたが、フロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものについては記載されていなかったのを、リンク取付部がフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成されるもののほかに、フロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものを含むように変更した(以下、本件補正のうちの上記部分の補正を「当該補正」という。)。

3  本件決定の理由の要点

本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、リンク取付部の構成として、フロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものは当初明細書に記載されておらず、かつ、自明な構成でもないから、当該補正によるリンク取付部の変更は当初明細書に開示されていない技術的事項であり、本件補正は明細書の要旨を変更するものであって、実用新案法41条により準用する特許法159条1項によってさらに準用する同法53条1項(いずれも平成5年法律第26号による改正前の規定、以下、実用新案法及び特許法につき同じ。)により却下すべきものであるとした。

第3  原告主張の本件決定の取消事由の要点

1  本件決定は、周知の技術事項を看過して、当該補正が当初明細書に記載した範囲内のものであるにもかかわらず、明細書の要旨を変更するものとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  取消事由

(1)  本件決定は、「当初明細書に記載された技術的事項の範囲によると、リンク取付部の構成は前後壁の間にラテラルリンクを挟んで両側から揺動可能に支持するものであって、この構成はフロントロアパネル及びリアロアパネルを用いて形成できるものであってフロントロアパネルにのみ、またはリアロアパネルにのみでは形成できない。・・・以上のように、リンク取付部の構成として前記フロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものは当初明細書に記載されておらず、かつ、自明な構成でもない。したがって、上記手続補正によるリンク取付部の変更は当初明細書に開示されていない技術的事項である。」(決定書7頁17行~8頁16行)と判断したが誤りである。

(2)  実用新案法9条によって準用される特許法41条の規定する「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは、明細書に直接表現されている事項に限らず、出願時に当業者が当初明細書等の記載からみて自明な事項を含むものである。そして、この場合の自明な事項とは、当初明細書等に記載された事項と、出願時に当該考案の属する技術分野に関して当業者が有する技術的知識・背景とに基づいて定まるものであり、当該技術分野においてある技術事項が周知慣用である故にある事項が自明とされる場合のその技術事項の範囲は、当初明細書等に記載された事項と、当業者が有する技術的知識・背景とを個別具体的に検討することによって判断されるものである。

しかるところ、本願出願当時、本願考案の属する技術分野においては、本願明細書に従来のリンク取付部の構成として明示の記載のある、サスペンションのラテラルリンクを両側から挾んで揺動自在に支持(両持ち支持)する一対の別体のブラケットをサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるものだけでなく、サスペンションのラテラルリンクを片側から揺動自在に支持(片持ち支持)する別体のブラケットを、サブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成も、周知慣用の技術であった。

このことは、本願出願前に、上記のような片持ち支持のリンク取付部の構成を開示した次の各刊行物が頒布されていたことにより明らかである。

<1> 特開昭59-143704号公報(甲第12号証、以下「刊行物<1>」という。)

<2> 特開昭59-143705号公報(甲第13号証、以下「刊行物<2>」という。)

<3> 米国特許第2865651号明細書(甲第14号証、以下「刊行物<3>」という。)

<4> 米国特許第2967066号明細書(甲第15号証、以下「刊行物<4>」という。)

<5> 米国特許第3380754号明細書(甲第16号証、以下「刊行物<5>」という。)

<6> 米国特許第4620720号明細書(甲第17号証、以下「刊行物<6>」という。)

<7> 特公昭48-16644号公報(甲第19号証、以下「刊行物<7>」という。)

<8> 特公昭56-3807号公報(甲第20号証、以下「刊行物<8>」という。)

<9> 特開昭62-160905号公報(甲第21号証、以下「刊行物<9>」という。)

<10> 特開昭62-160906号公報(甲第22号証、以下「刊行物<10>」という。)

<11> 特開昭61-232909号公報(甲第23号証、以下「刊行物<11>」という。)

<12> 実願昭58-51366号のマイクロフィルム(甲第24号証、以下「刊行物<12>」という。)

そして、本願の当初明細書に、従来技術の問題点として、「リンク取付部cは、サブフレーム本体aの両端前後部に、これと別体の一対のブラケットi、jを溶接により固定して構成しているため、そのリンク取付部cを設ける工程が複雑で量産性が低いと共に、強度的に好ましくない等の問題点があった。」(甲第2号証4頁14~19行)と記載され、考案の効果として、「リンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成したから、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい。」(同12頁9~12行)」と記載されているように、本願考案は、従来技術における、サブフレーム本体とは別体のブラケットを溶接固定して構成していたリンク取付部において、そのリンク取付部を設ける工程が複雑で量産性が低いとともに、強度的に好ましくないとの問題点を解決することを考案の目的の一つとしているところ、この問題点は、サブフレーム本体に一体形成する構成のリンク取付部を採用することによって解決されるものであって、これにより、上記の二重安全の観点から好ましいとの作用効果を奏し得るものである。しかるところ、この作用効果は、リンク取付部をサブフレーム本体のフロントロアパネル及びリヤロアパネルの両方に一体形成した態様に特有のものではなく、リンク取付部をフロントロアパネルのみに一体形成したものや、リンク取付部をリヤロアパネルのみに一体形成したものであっても、同様の作用効果を奏し得ることは明らかであり、この目的及び作用効果に照らせば、リンク取付部をサブフレーム本体に一体に形成したことが、本願考案のリンク取付部に関する基本的技術思想であるとみることができる。

そして、本願出願当時、本願考案の属する技術分野において、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットを、サブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であったことは上記のとおりであるところ、そのような別体のブラケットによりラテラルリンクを片持ち支持するリンク取付部においても、別体のブラケットを溶接固定したことによる欠点の解決が問題となり、その問題点が、リンク取付部をサブフレーム本体に一体に形成することにより解決し得ることは、両持ち支持の場合におけると同様である。

そうすると、出願時に、当業者が、上記周知慣用技術に基づいて本願の当初明細書等に記載されている技術内容を客観的に判断すれば、ラテラルリンクを片側から支持するリンク取付部をサブフレーム本体と一体に形成した構成、すなわち、リンク取付部を、サブフレーム本体のフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成した構成が当然に理解されるものであって、該構成は、当初明細書の記載から見て自明な事項に該当するものというべきである。

(3)  被告は、当該補正が明細書の要旨を変更するものではないとするためには、本願の出願時に、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体の両端部に、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットを溶接固定してなるリンク取付部が周知慣用技術であることを必要とすると主張するが、誤りである。

すなわち、当該補正は、当初明細書が「リンク取付部がフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成される」としていたのを、「リンク取付部がフロントロアパネル又はリヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成される」とするものである。そうすると、このリンク取付部に関する補正が明細書の要旨を変更するものであるかどうかを判断するために、当初明細書の記載から見て自明な事項であるかどうかを検討すべき対象が、サブフレーム本体の構成ではなく、リンク取付部の構成であることは明らかである。

また、当初明細書に、本願考案が、従来技術におけるサブフレーム本体とは別体のブラケットを溶接固定して構成していたリンク取付部において、そのリンク取付部を設ける工程が複雑で量産性が低いとともに、強度的に好ましくないとの問題点を解決することを考案の目的の一つとする旨、及びこの問題点が、サブフレーム本体に一体形成する構成のリンク取付部を採用することによって解決されるものであって、これにより、二重安全の観点から好ましいとの作用効果を奏し得る旨が記載されていることは、上記(2)のとおりであるところ、そのような問題点の存在、問題点の解決のための構成及びそれによる作用効果が、サブフレーム本体が「アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体」である場合に限定されるものでもない。

さらに、上記のとおり、ある事項が自明とされるためにどのような事項が周知慣用であることを要するかは、当初明細書等に記載された事項と、当業者が有する技術的知識・背景とを個別具体的に検討することによって判断されるものであるところ、本願の当初明細書の第5図に表示されたサブフレーム本体の実施例は、方形の閉鎖断面形状に形成されて充分な強度を有するので、そのフロントロア23の下端部を下方に延長して、該延長した部分によってラテラルリンク9を片側から支持する片持ち支持構造のリンク取付部が成立することは当業者であれば容易に理解することができる。実際に、板金製のサブフレーム本体を、当該補正に係る構成である「上部のアッパーパネル、下部前方のフロントロアパネル及び下部後方のリヤロアパネルにより囲まれる閉鎖型断面」とした場合でも、リンク取付部をフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成する片持ち支持構造は、技術的に十分成立するものである(甲第27号証)。

のみならず、板金製サブフレームにおけるラテラルリンクを片持ち支持する構造のリンク取付部に係る支持強度については、主として、リンク取付部自体の支持強度、すなわち、ラテラルリンクから外力を受けた場合のサブフレーム本体とこれに溶接固定されたブラケットとの連接部の支持強度が問題となるが、特開昭63-25115号公報に「サスペンションメンバ10を構成するクロスメンバ部13やタワー部14の板厚を厚くしたり、タワー部14のクロスメンバ部13との結合強度を強くして、サスペンションメンバ10の剛性を確保してある。」(甲第26号証2頁右上欄14~18行)と記載されているように、板金製サブフレーム本体及びブラケットの板厚を厚くしたり、連接部の溶接強度を強くしたりすることによって、板金製サブフレームにおいてもリンク取付部の支持強度を十分確保することが可能であり、サブフレーム本体の強度に関しても、サブフレームを形成する各鋼板製パネルのプレス加工の際に、ビード(細かい出張り)を形成することにより重量を増さずにネジリ剛性を上げる技術を用いたり、鋼板製パネルの断面形状、さらにはこれを溶接して形成するサブフレーム自体の断面形状を様々に工夫して、板金製サブフレーム本体の強度を上げることも可能である。

したがって、板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、あるいはアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルにより囲まれる閉鎖型断面を有する板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、片持ち支持構造とすることに強度的な問題はない。

そうすると、上記自明性の判断に当たっては、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットをサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術といえるかどうかを検討すれば足り、サブフレーム本体が、被告主張のようなアッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のものについての周知慣用技術に限定する必要はない。

(4)  また、被告は、刊行物<1>~<12>には、そこに記載されたもののサスペンションのラテラルリンクの支持構造について具体的な記載がないとか、ラテラルリンクの支持構造が片持ち支持であると一義的に理解できるものではないとか、板金製のサブフレームを前提とするものであるかどうかが明らかではない等として、刊行物<1>~<12>によっては、本願出願時において、サスペンションのラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットを、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であると認めることはできないと主張する。

しかしながら、刊行物<1>~<12>にそれぞれ開示されている内容を、当業者の技術水準に照らして判断すれば、サスペンションのラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する(片持ち支持する)別体のブラケットをサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成を読み取ることができるものであるから、本願出願時に、本願考案の属する技術分野において、該構成が周知慣用技術であることは明らかである。

また、該周知慣用技術が、サブフレーム本体が板金製であるものに限られる必要のないことは、上記(3)のとおりであるが、仮に、板金製のサブフレーム本体であることが前提となるとしても、刊行物<1>~<7>、<9>~<12>に記載されたサブフレームは、図面に示された形状などからみて板金製であると解される。

すなわち、自動車は、軽量化を図るために、鋼板をプレス加工して車体各部を形成し、この車体各部を溶接によって結合して車体を形成するものである。プレス加工の技術は、特に近年の車体のモノコックボディ化により大幅に進歩しているところである。そして、サブフレームも車体の一部を構成する比較的大きい部品の一つであるから、軽量化のため、プレス加工した鋼板を溶接して断面中空形状に形成された板金製サブフレームであることが大原則である。また、板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、片持ち支持構造とすることに強度的な支障がないことは上記(3)のとおりである。したがって、刊行物<1>~<7>、<9>~<12>に記載されたサブフレームは、特に板金製である旨の明示の文言がなくとも、板金製のサブフレームであると考えるのが当業者の技術常識である。

被告は、刊行物<1>~<7>、<9>~<12>に、サブフレームが板金製である旨の明示の文言がないことを殊更取り上げて、板金製のサブフレームを前提とするものであるかどうかが明らかではないと主張するが、当業者の技術常識とかけ離れた議論である。

第4  被告の反論の要点

1  本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

2  取消事由について

(1)  原告は、本願考案の目的及び作用効果に照らして、サブフレーム本体とは別体のブラケットを溶接固定してリンク取付部を構成していたことが従来技術の欠点であり、これを解決するために、リンク取付部をサブフレーム本体に一体形成したことが本願考案のリンク取付部に関する基本的技術思想であるところ、本願出願当時、本願考案の属する技術分野において、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットを、サブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であったから、当業者が上記周知慣用技術に基づいて、本願の当初明細書等に記載されている技術内容を客観的に判断すれば、ラテラルリンクを片側から支持するリンク取付部をサブフレーム本体と一体形成した構成、すなわち、リンク取付部をサブフレーム本体のフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成した構成が当然に理解され、該構成は当初明細書に記載されていたものと同視できるものであり、当初明細書の記載から見て自明な事項に該当すると主張するが、該主張は誤りである。

(2)  本願の当初明細書には、実用新案登録請求の範囲第1項の前提技術に相当する箇所(「・・・において、」までの部分)に「板金製の車体のサブフレームにおいて」(甲第2号証1頁9行)と記載され、その考案の詳細な説明には、「従来の技術」として、「従来、F.F(フロントエンジン・フロントドライブ)車のフロントサスペンションのメンバー(リヤビーム)として適用されて、サスペンションのラテラルリンクからの横入力を受ける板金製の車体のサブフレームとして、第9図乃至第11図に示すものが知られている。・・・サブフレーム本体aはプレスにより絞り成形されたアッパーハーフdと、同じく絞り成形されたロアハーフeとの2部材から成り、これらアッパーハーフdとロアハーフeとを、それらのフランジ部f、gを合わせて、溶接により互いに結合して成る。また、リンク取付部cは、ロアハーフeの端部側前後面に、互いにスペーサhを介して結合された一対のブラケットi、jを溶接にて固定して構成していた。ところで、F.F車の場合、この種のサブフレームが配設される部位近傍には、・・・スペースが少ないため、サブフレームを通すのが非常に困難である。しかし、この種のサブフレームは、操安性に対する寄与率が高いので、所定の剛性を確保するに足る断面構造が必要である。」(同号証2頁11行~3頁18行)との記載が、「考案が解決しようとする課題」として、「上述した従来のサブフレームにあっては、ロアハーフeの前後幅が・・・規制されるために、所定の剛性を確保するに足る断面を得るべくロアハーフeを上下方向に深絞りして成形していた。従って、ロアハーフeの材料としては、良好な絞り性が要求され、材料選択の自由度が低いと共に、その深絞りにも限度があり、断面構造に制約を受ける。また、車種に応じてロアハーフeを絞り成型するためのプレス成形型を種々備えなければならず、プレス成形型の数が増加する。また、サブフレーム本体aの断面は、全長に亘って一様ではないので、絞り成形による屈曲部にしわや切れが生じて加工性が悪い。更に、リンク取付部cは、サブフレーム本体aの両端前後部に、これと別体の一対のブラケットi、jを溶接により固定して構成しているため、そのリンク取付部cを設ける工程が複雑で量産性が低いと共に、強度的に好ましくない等の問題点があった。本考案は上記事情に鑑みてなされたもので、材料選択の自由度が高く、プレス成形型の数も少なくて済み、しかも、加工性が良好で量産性が高く、強度的にも良好な車体のサブフレームを提供することを目的としている。」(同3頁末行~5頁4行)との記載があって、本願考案がプレス等で加工した板金を断面中空形状を有するように複数枚溶接固定してなるサブフレームを対象にしたものであること、そのような板金製のサブフレーム本体は種々の欠点を有すること、本願考案の目的が、それら板金製の車体のサブフレームが有する欠点を解消しようとするものであることが明示されており、サブフレーム本体は一貫して板金製のものとして記載されている。

この場合の従来の板金製サブフレームは、リンク取付部として一対のブラケットを必須の部材としており、本願考案は、このような一対のブラケットが必須であったサブフレーム本体の欠点を、その一対のブラケットをなくし、従来、一対のブラケットに形成していた両持ち支持用のリンク取付部を、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体のフロントロア及びリヤロアに一体形成された両持ち支持用のリンク取付部としてそのまま採用したものである。

そして、本願の当初明細書には、このような本願考案の効果について「材料の深絞りが緩和され、材料選択の自由度が高く、プレス成形型の数も少なくて済み、しかも、加工性が良好で、量産性が高く、種々の断面形状を容易に得られるので、設計の自由度も高い。また、リンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成したから、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい。」(同12頁4~12行)と記載され、アッパーハーフのほか、フロントロア及びリヤロアから構成される板金製のサブフレームを前提としている。

以上の当初明細書の記載によれば、従来技術の欠点は、リンク取付部に関しては、板金製のサブフレーム本体とは別体の一対のブラケットを溶接固定してリンク取付部を構成していた点にあり、本願考案は、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材からなる板金製のサブフレーム本体の前後に、すなわちフロントロア及びリヤロアにリンク取付部を一体形成して、これを克服したものといえる。

そうすると、リンク取付部がフロントロアパネル又はリヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成されるとの当該補正が、明細書の要旨を変更するものではないとするためには、本願の出願時に、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体の両端部に、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する(片持ち支持する)別体のブラケットを溶接固定してなるリンク取付部が周知慣用技術であることを必要とするものというべきである。

原告は、本願の当初明細書の記載中のリンク取付部に関する部分のみを抜き出して、単にラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットをサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であれば足りるとし、サブフレーム本体はアッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のものに限定されないと主張するが、リンク取付部が適用されるサブフレーム本体の形状について、本願考案の前提となる構成を無視するものであって、当初明細書に記載されていた本願考案の技術思想を正確に捉えたものということはできない。

原告は、板金製サブフレームを前提とするリンク取付部、あるいはアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルにより囲まれる閉鎖型断面を有する板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、片持ち支持構造とすることに強度的な問題はないと主張するが、その根拠とする特開昭63-25115号公報記載の「タワー部14」はアッパリンク19を支持するためにクロスメンバ13の上方に設けられたもので、ラテラルリンク(ロアアーム)を支持するためのブラケットに相当するものではない。また、サブフレーム本体やブラケットの板厚を厚くしたり、連接部の溶接強度を強くしたりすること、ビードを形成すること、鋼板製パネルやサブフレーム自体の断面形状を様々に工夫することなどは、強度を高めるための従来周知の手段にすぎず、それらを挙げたところで、片持ち支持の際に板金製サブフレームが強度的に十分耐え得るとの客観的理由にはならない。さらに、構造解析の結果を記載した報告書(甲第27号証)は、自明な技術の存在を明らかにするものではない。

(3)  原告は、刊行物<1>~<12>に記載された技術事項を根拠として、片持ち支持の周知慣用性を主張するが、誤りである。

すなわち、刊行物の記載を根拠として、ある技術が周知慣用である旨をいうためには、当該技術が、その刊行物の文言上あるいは図面上、明確に記載されているなどして、当該技術が記載されていることが一義的に理解できるような刊行物によることが必要であると解される。しかるところ、刊行物<1>~<6>には、そこに記載されたもののサスペンションのラテラルリンクの支持構造について具体的な記載がなく、その添付図面によっても、ラテラルリンクの支持構造が片持ち支持であると一義的に理解できるものではない。刊行物<7>~<12>には、そこに記載されたもののサスペンションのラテラルリンクの支持構造について具体的な記載がないのみならず、その添付図面によっても、その支持構造が明らかではない。さらに、刊行物<1>~<12>に記載されたものは、いずれも板金製のサブフレームを前提とするものであるかどうかが明らかではない。そうすると、刊行物<1>~<12>によっては、本願出願時において、サスペンションのラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する(片持ち支持する)別体のブラケットを、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であると認めることはできないものである。

この点につき、原告は、軽量化のため、サブフレームはプレス加工した鋼板を溶接して断面中空形状に形成された板金製サブフレームであることが大原則であり、また、板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、片持ち支持構造とすることに強度的な問題はないとして、刊行物<1>~<7>、<9>~<12>に記載されたサブフレームは、特に板金製である旨の明示の文言がなくとも、板金製のサブフレームであると考えるのが当業者の技術常識であると主張するが、本願出願時において、鋳造によって形成される軽合金性のサブフレームが存在していたから、サブフレームは板金製であることが大原則であるとの主張は当たらず、また、板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、片持ち支持構造とすることが強度的に可能であるとの主張が裏付けとなる技術的な根拠を欠くものであることは上記(2)のとおりである。したがって、刊行物<1>~<7>、<9>~<12>自体にサブフレーム本体が板金製である旨の記載がない以上、そこに記載されたサブフレーム本体が板金製サブフレームであるかどうかは不明であるといわざるを得ない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由について

(1)  実用新案法41条により準用される特許法159条1項によってさらに準用される同法53条1項は「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、・・・決定をもってその補正を却下しなければならない。」と定め、また、実用新案法9条1項により準用される特許法41条は「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定するところ、ここでいう「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」には、必ずしも明細書に直接表現されていなくとも、明細書の記載からみて、出願時に当業者にとって自明である技術的事項もこれに含まれるものと解されるが、そのような自明である事項に当たるというためには、その事項自体が、その考案の属する技術分野において周知の技術的事項であるというだけでは足りず、当業者であれば、その考案の目的からみて当然にその考案に適用できるものと容易に判断することができ、その事項が明細書に記載されているのと同視できるものであることを要するものと解すべきである。

(2)  本願の当初明細書に、その実用新案登録請求の範囲の請求項第1項として「両端が車体に取り付けられて該車体の横方向に配置されるサブフレーム本体の両端部に設けたリンク取付部に、サスペンションのラテラルリンクが取り付けられて、該ラテラルリンクからの横入力を受ける板金製の車体のサブフレームにおいて、前記サブフレーム本体を、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成したことを特徴とする車体のサブフレーム。」と、同第2項として「前記リンク取付部を、前記フロントロア及びリヤロアに一体形成したことを特徴とする請求項1記載の車体のサブフレーム」とそれぞれ記載されていたことは当事者間に争いがなく、さらに当初明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明には、「従来の技術」として「従来、F.F(フロントエンジン・フロントドライブ)車のフロントサスペンションのメンバー(リヤビーム)として適用されて、サスペンションのラテラルリンクからの横入力を受ける板金製の車体のサブフレームとして、第9図乃至第11図に示すものが知られている。・・・サブフレーム本体aはプレスにより絞り成形されたアッパーハーフdと、同じく絞り成形されたロアハーフeとの2部材から成り、これらアッパーハーフdとロアハーフeとを、それらのフランジ部f、gを合わせて、溶接により互いに結合して成る。また、リンク取付部cは、ロアハーフeの端部側前後面に、互いにスペーサhを介して結合された一対のブラケットi、jを溶接にて固定して構成していた。ところで、F.F車の場合、この種のサブフレームが配設される部位近傍には、・・・スペースが少ないため、サブフレームを通すのが非常に困難である。しかし、この種のサブフレームは、操安性に対する寄与率が高いので、所定の剛性を確保するに足る断面構造が必要である。」(同号証2頁11行~3頁18行)との、「考案が解決しようとする課題」として「上述した従来のサブフレームにあっては、ロアハーフeの前後幅が・・・規制されるために、所定の剛性を確保するに足る断面を得るべくロアハーフeを上下方向に深絞りして成形していた。従って、ロアハーフeの材料としては、良好な絞り性が要求され、材料選択の自由度が低いと共に、その深絞りにも限度があり、断面構造に制約を受ける。また、車種に応じてロアハーフeを絞り成型するためのプレス成形型を種々備えなければならず、プレス成形型の数が増加する。また、サブフレーム本体aの断面は、全長に亘って一様ではないので、絞り成形による屈曲部にしわや切れが生じて加工性が悪い。更に、リンク取付部cは、サブフレーム本体aの両端前後部に、これと別体の一対のブラケットi、jを溶接により固定して構成しているため、そのリンク取付部cを設ける工程が複雑で量産性が低いと共に、強度的に好ましくない等の問題点があった。本考案は上記事情に鑑みてなされたもので、材料選択の自由度が高く、プレス成形型の数も少なくて済み、しかも、加工性が良好で量産性が高く、強度的にも良好な車体のサブフレームを提供することを目的としている。」(同3頁末行~5頁4行)との、「課題を解決するための手段」として「上記目的を達成するため本考案の車体のサブフレームは、サスペンションのラテラルリンクからの横入力を受けるサブフレーム本体を、アッパーハーフ、フロントハーフ及びリヤハーフの3部材にて構成したものである。また、ラテラルリンクが取り付けられるリンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成するとよい。」(同5頁6~13行)との、「実施例」として「本考案のサブフレーム13は板金製であって、第3図乃至第5図に示す如く、サブフレーム本体20の両端部にラテラルリンク9が取り付けられるリンク取付部21を設けて成る。」(同8頁6~9行)、「突出壁30、31及びスペーサ32により、リンク取付部21が構成され、これにより、リンク取付部21がフロントロア23とリヤロア24に一体形成されている。」(同9頁14~18行)との、「考案の効果」として「以上の如く本考案の車体のサブフレームは、サスペンションのラテラルリンクからの横入力を受けるサブフレーム本体を、アッパーハーフ、フロントハーフ及びリヤハーフの3部材にて構成したものである。従って、材料の深絞りが緩和され、材料選択の自由度が高く、プレス成形型の数も少なくて済み、しかも、加工性が良好で、量産性が高く、種々の断面形状を容易に得られるので、設計の自由度も高い。また、リンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成したから、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい。」(同11頁19行~12頁12行)との各記載がある。

これらの当初明細書の記載によれば、当初明細書に記載された考案は、従来のアッパーハーフとロアハーフの2部材からなる板金製のサブフレームが有する種々の問題点、すなわち、ロアハーフの前後幅が規制されることに伴い、所定の剛性を確保するに足る断面積を得るためにロアハーフを上下方向に深絞りして成形していたことに起因する、ロアハーフの材料選択の自由度が低いこと、ロアハーフの断面構造に制約を受けること、車種に応じたプレス成形型の数が増加すること、絞り成形によって屈曲部にしわや切れが生じ、加工性が悪いこと、さらに、リンク取付部が、サブフレームとは別体の一対のブラケットを溶接によりサブフレームに固定する構成であるため、工程が複雑で量産性が低く、強度的にも好ましくないこと等の問題点を解決することを目的とし、板金製のサブフレームをアッパーハーフ、フロントハーフ及びリヤハーフの3部材で構成するとともに(フロントハーフ、リヤハーフは、それぞれフロントロアパネル、リヤロアパネルを指すものと認められる。)、リンク取付部をフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成する構成とし、これによって、材料の深絞りを緩和して、材料選択の自由度が高く、プレス成形型の数が少なくて済み、加工性が良好で、量産性が高く、設計の自由度が高くなり、さらに、ラテラルリンクが溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましいという作用効果を奏するものと認められる。

すなわち、当初明細書に記載された考案は、サブフレームが複数枚のプレス成形された板金製部材からなる断面中空形状のものであることを前提としたうえで、従来のアッパーハーフとロアハーフの2部材からなる板金製サブフレームが有する問題点を、該板金製サブフレームをアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成することによって解決するとともに、リンク取付部に関し、従来の一対のブラケットをサブフレームに溶接固定するものの有する問題点(ブラケットが一対であることによる問題点でなく、溶接固定されることに起因する問題点)を、リンク取付部をフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成する構成とすることによって解決することを、考案の目的とするものである。従来のリンク取付部につき1個のブラケットを溶接固定してなるもの、及び問題点を解決する手段として、リンク取付部をフロントロアパネル又はリヤロアパネルのうちの一方のみに一体形成することは、当初明細書(甲第2号証)に全く記載されていない。

しかるところ、原告は、本願出願当時、本願考案の属する技術分野において、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットを、サブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であったところ、そのようなラテラルリンクを片持ち支持するリンク取付部においても、別体のブラケットを溶接固定したことによる欠点の解決が問題となり、その問題点が、リンク取付部をサブフレーム本体に一体形成することにより解決し得ることは、両持ち支持の場合におけると同様であるから、当業者が上記周知慣用技術に基づいて、本願の当初明細書等に記載されている技術内容を客観的に判断すれば、ラテラルリンクを片側から支持するリンク取付部をサブフレーム本体と一体に形成した構成、すなわち、リンク取付部を、サブフレーム本体のフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成した構成が当然に理解されるものであって、該構成は、当初明細書の記載から見て自明な事項に該当すると主張する。

しかしながら、自明な事項に当たるというためには、その事項自体が周知の技術的事項であるというだけでは足りず、当業者であれば、その考案の目的からみて当然にその考案に適用できるものと容易に判断することができ、その事項が明細書に記載されているのと同視できるものであることを要することは前示のとおりであるところ、仮に、原告主張のとおり、本願出願当時、本願考案の属する技術分野において、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットを、サブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術であったとしても、それだけでは、当業者が、当初明細書に記載された考案の目的からみて、該片持ち支持構造のリンク取付部の構成をその考案に適用して、ラテラルリンクを片側から支持するリンク取付部をサブフレーム本体と一体形成した構成にすること、すなわち、リンク取付部を、サブフレーム本体のフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成した構成にすることが当然にできるものと容易に判断することはできないものというべきである。

すなわち、本願の当初明細書に記載された考案は、前示のとおり、サブフレームが複数枚のプレス成形された板金製部材からなる断面中空形状のものであることを前提としたうえで、従来のアッパーハーフとロアハーフの2部材からなる板金製サブフレームが有する問題点を、該板金製サブフレームをアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成することによって解決するとともに、リンク取付部に関し、従来の一対のブラケットをサブフレーム本体に溶接固定するものの有する問題点を、リンク取付部をフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成する構成とすることによって解決することを、考案の目的とするものである。そうすると、従来のリンク取付部のブラケットを溶接固定することに起因する問題点の存在自体は、このような板金製サブフレームに限られるものではないとしても、この問題点を解決するための手段である、リンク取付部をサブフレーム本体に一体形成する構成とすることは、あくまで板金製サブフレームを前提とするものであり、かつ、本願の当初明細書に記載された考案においては、該板金製サブフレームをアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成することが前提となるものである(前示争いのない本件補正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項第1項の記載からみて、本件補正に係る考案においてもその点は同様である。)。その場合に、サブフレームのリンク取付部がサスペンションのラテラルリンクを両側から挾んで揺動自在に支持(両持ち支持)する構造と、片側からだけ揺動自在に支持する(片持ち支持)する構造とでは、ラテラルリンクからの横方向の外力がサブフレームに加わる位置、外力の加わる方向等に相違が生じることが当然予想されるものであるのみならず、アッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製サブフレームを前提とすると、本願の当初明細書に記載された考案のように、リンク取付部をフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成する構成とする場合(両持ち支持とする場合)には、ラテラルリンクから加わる横方向からの外力を、直接にはフロントロアパネル及びリヤロアパネルの両方で受けることになるのに対し、リンク取付部をフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成する構成とする場合(片持ち支持とする場合)には、ラテラルリンクから加わる横方向からの外力を、直接にはフロントロアパネル又はリヤロアパネルの一方で受けることになるのである。そして、溶接箇所を含むその強度等の面で、複数枚のプレス成形された板金製部材からなる断面中空形状のサブフレームが、板金製以外の構造のサブフレーム、例えば鋳造製のサブフレーム等と同一であるといえないことはもとより、アッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製サブフレームが、アッパーハーフとロアハーフの2部材で構成する板金製サブフレームと全く同一であるといえないことも明らかである。そうであれば、アッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製のサブフレームにおいて、リンク取付部をフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成して、ラテラルリンクを片持ち支持するリンク取付部が周知慣用技術であるといえなければ、当業者は、当初明細書に記載された考案の目的からみて、片持ち支持構造のリンク取付部の構成をその考案に適用し、サブフレーム本体のフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成されたリンク取付部の構成とすることが当然にできるものと容易に判断することはできないものというべきである。

原告は、リンク取付部に関する当該補正について、従来の別体のブラケットを溶接固定したリンク取付部における前示問題点の存在、及びこの問題点が、サブフレーム本体に一体形成する構成のリンク取付部を採用することによって解決され、二重安全の観点から好ましいとの作用効果を奏し得ることは、ラテラルリンクを片持ち支持するリンク取付部にあっても同様であると主張し、さらに、当初明細書の記載から見て自明な事項であるかどうかを検討すべき対象は、サブフレーム本体の構成ではなく、リンク取付部の構成であって、前示問題点の存在、及びサブフレーム本体に一体形成する構成のリンク取付部を採用することによりこれが解決され、前示作用効果を奏することは、アッパーハーフ、フロントロア及びリヤロアの3部材にて構成される板金製のサブフレーム本体の場合に限定されるものではないとして、自明性の判断に当たっては、ラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する別体のブラケットをサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が周知慣用技術といえるかどうかを検討すれば足りると主張するが、上如のとおりであるから、その主張を採用することはできない。

また、原告は、ある事項が自明とされるためにどのような事項が周知慣用であることを要するかは、当初明細書等に記載された事項と、当業者が有する技術的知識・背景とを個別具体的に検討することによって判断されるとしたうえで、本願の当初明細書の第5図に表示されたサブフレーム本体の実施例は、方形の閉鎖断面形状に形成されて充分な強度を有するので、そのフロントロア23の下端部を下方に延長して、該延長した部分によってラテラルリンク9を片側から支持する片持ち支持構造のリンク取付部が成立することは当業者であれば容易に理解することができると主張するが、方形の閉鎖断面形状に形成されているからといって、アッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製サブフレームに強度等の問題が生じないと判断し得ないことは上如のとおりである。

なお、原告従業員の作成した構造解析報告書(甲第27号証)には、板金製のサブフレーム本体を、当該補正に係る構成である「上部のアッパーパネル、下部前方のフロントロアパネル及び下部後方のリヤロアパネルにより囲まれる閉鎖型断面」とした場合に、片持ち支持構造(フロントロアパネルにリンク取付部を一体形成した場合及びリヤロアパネルにリンク取付部を一体形成した場合の双方)と、両持ち支持構造のシミュレーションモデルを作成して、ラテラルリンクからの横方向の入力を受けたときの構造解析を行い、サブフレーム各部位の応力値を計算した結果、許容応力値との比較、両持ち支持構造との比較において、片持ち支持構造が十分な強度耐久性を有することが確認された旨が記載されているところ、仮に、該構造解析をする際の前提条件(アッパーパネル、フロントロアパネル、リヤロアパネルの各板厚等)が、その目的からみて適切なものであるとしても、かかる構造解析を経て明らかにされる事項を前提とするような技術的事項が、当初明細書の記載からみて、出願時に当業者にとって自明である技術的事項と即断することができない。すなわち、当業者において、その考案の目的からみて当然にその考案に適用できるものと容易に判断することができないし、また、その事項が明細書に記載されているのと同視できるものに当たると即断することはできない。

さらに、原告は、特開昭63-25115号公報の記載を引用して、板金製サブフレームにおいても、サブフレーム本体とこれに溶接固定されたブラケットとの連接部の支持強度を十分確保することが可能であり、板金製サブフレーム本体の強度を上げることも可能であるから、板金製サブフレームを前提とするリンク取付部であっても、片持ち支持構造とすることに強度的な問題はないと主張する。しかし、特開昭63-25115号公報(甲第26号証)の原告の引用に係る「サスペンシヨンメンバ10を構成するクロスメンバ部13やタワー部14の板厚を厚くしたり、タワー部14のクロスメンバ部13との結合強度を強くして、サスペンシヨンメンバ10の剛性を確保してある。」(同号証2頁右上欄14~18行)との記載は、その直前の「前述のサスペンション装置においては、サスペンシヨンメンバ10のタワー部14がクロスメンバ部13の端部に所謂片持ち状態で立設され、このタワー部14の上部にアツパリンク19が連結されているので、タワー部14が車輪9からナツクルスピンドル18とアツパリンク19とを経由する外力を受けた場合、タワー部14はクロスメンバ部13の連接部を中心として曲げられ易い。」(同頁右上欄7~14行)との記載及び第6図の表示に照らして、アッパリンク19を片持ち支持するためクロスメンバ部13の端部に立設されたタワー部14が、アッパリンクからの外力を受ける場合のその曲げ剛性を確保するために、クロスメンバ部13やタワー部14の板厚を厚くしたり、それらの結合強度を強くするという趣旨のものであって、アッパリンク19を片持ち支持するためにクロスメンバ部13の端部に設けられるタワー部が、本願考案におけるラテラルリンク(ロアーアーム、ロアリンク)を取り付けるためのリンク取付部に相当するものでないことは明らかであるのみならず、ブラケットとの連接部の支持強度、あるいは板金製サブフレーム本体の強度を確保する方法として原告が挙げる、板金製サブフレーム本体及びブラケットの板厚を厚くすること、連接部の溶接強度を強くすること、ビードを形成すること、鋼板製パネルの断面形状やサブフレーム自体の断面形状を様々に工夫すること等は、それぞれ強度を高めるための従来周知の一般的な手段であるにすぎないから、これらを採用することにより、アッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製のサブフレームにおいて、リンク取付部をフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成する構成により片持ち支持構造とした場合に、該サブフレームが強度的に十分耐え得るものであるとの具体的・客観的な理由を示すものということはできない。

(3)  しかるところ、刊行物<1>~<12>(甲第12~第17号証、第19~第24号証)についてみるに、仮に、そこに記載されたものについて、サスペンションのラテラルリンクを片側から揺動自在に支持する(片持ち支持する)別体のブラケットをサブフレーム本体の両端部に溶接固定してなるリンク取付部の構成が記載ないし示唆されているとしても、そのサブフレームが板金製である旨を明示したものはなく、まして、それがアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製のサブフレームであると認められるものは全くない。そうすると、刊行物<1>~<12>によっては、アッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成する板金製のサブフレームにおいて、リンク取付部をフロントロアパネルのみ又はリヤロアパネルのみに一体形成する構成としてラテラルリンクを片持ち支持するリンク取付部が、本願の出願時に周知慣用技術であったことを認めることはできず、また他にこの点を認めるに足りる証拠もない(そもそも、板金製のサブフレームをアッパーパネル、フロントロアパネル及びリヤロアパネルの3部材で構成することは本願考案の新規性及び進歩性を基礎付けるものであるから、そのようなサブフレームを前提として、ラテラルリンクを片持ち支持する支持構造のリンク取付部が周知慣用技術であったとは、通常考え難いところである。)。

したがって、リンク取付部がフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成されるもののほかに、フロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものを含むように変更した当該補正が、出願時に当業者にとって自明な事項である故に、当初明細書に記載した事項の範囲内のものであると認めることはできず、本件決定に原告主張の誤りはない。

2  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成6年審判第20751号

補正の却下の決定

請求人 本田技研工業株式会社

代理人弁理士 渡部敏彦

昭和63年実用新案登録願第73476号「車体のサブフレーム」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり決定する。

結論

平成6年3月23日付けの手続補正を却下する。

理由

1.補正事項

平成6年3月23日付手続補正書によって補正する補正の内容は、実用新案登録請求の範囲の記載において、リンク取付部を「フロントロアパネルまたはリヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成される」とし、かつ、該構成に関連して考案の詳細な説明の記載を「前記リンク取付部は、前記フロントロアパネルまたは前記リヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成される」(補正明細書第4頁第21~22行)、「前記リンク取付部は、前記フロントロアパネルまたは前記リヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成される」(補正明細書第5頁第15~16行)、「リンク取付部がフロントロアパネルまたはリヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成されているので、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持される」(補正明細書第8頁第25~28行)と補正しようとするものである。

2.補正事項の検討

a)願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された技術的事項の範囲

願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書」という。)には、リンク取付部に関して「車体の横方向に配置されるサブフレーム本体の両端部に設けたリンク取付部」(実用新案登録請求の範囲第1項)、「前記リンク取付部を、前記フロントロア及びリヤロアに一体形成した」(実用新案登録請求の範囲第2項)、「ラテラルリンクが取り付けられるリンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成するとよい」(第5頁第12~14行)、「リンク取付部はフロントロアとリヤロアに一体形成される。」(第6頁第4~5行)、「サブフレーム本体20の両端部にラテラルリンク9が取り付けられるリンク取付部21を設けて成る」(第8頁第7~9行)、

「突出壁30、31及びスペーサ32により、リンク取付部21が構成され、これにより、リンク取付部21がフロントロア23とリヤロア24に一体形成されている。」(第9頁第14~18行)及び「リンク取付部を、フロントロア及びリヤロアに一体形成したから、ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい。」(第12頁第9~12行)と記載されている。

ところで、当初明細書でリンク取付部をフロントロア及びリヤロアに一体形成したとしたのは、本願考案の実施例である第3図のサブフレームの正面図及び第4図のサブフレームの断面図と「フロントロア23とリアロア24の両端部には、下方に向けて略半円状に突出する突出壁30、31が一体形成され、これら突出壁30、31は互いに間隔を存して対向し、その対向面間には断面略コ字形のスペーサ32が介装固定されている。突出壁30、31及びスペーサ32を貫通する孔33が穿設されている。このスペーサ32を介して互いに連結された突出壁30、31相互間にラテラルリンク9が取り付けられるものである。従って、突出壁30、31及びスペーサ32により、リンク取付部21が構成され、これにより、リンク取付部21がフロントロア23とリヤロア24に一体形成されている。」(第9頁第5~18行)との記載に基づくものである。

次に、前記リンク取付部の構成について、従来技術との関係からみると、第9図、第10図及び「リンク取付部cは、ロアハーフeの端部側前後面に、互いにスペーサhを介して結合された一対のブラケットi、jを溶接にて固定して構成していた」(第3頁第6~9行)という従来の構成があり、この構成に対して「リンク取付部cは、サブフレーム本体aの両端部に、これと別体の一対のブラケットi、jを溶接により固定して構成しているため、そのリンク取付部cを設ける工程が複雑で量産性が低いと共に、強度的に好ましくない等の問題点があった」(第4頁第14~19行)。そのため、突出壁30、31及びスペーサ32により、リンク取付部21を構成し、これにより、リンク取付部21をフロントロア23とリヤロア24に一体形成したものであって、その構成によって「ラテラルリンク(ロアアーム)が溶接部等を介することなく車体に支持されるので、二重安全の観点から好ましい」(第12頁第10~12行)ものとなった。このように、従来別体であったリンク取付部をフロントロア及びリアロアに溶接部を介することなく一体形成した点が従来技術との関係において新規な点である。

さらに、リンク取付部の構成に関して、従来技術のものと本願考案の実施例のものとを比較してみると、従来技術においてはフロント側ブラケットiとリア側ブラケットjの間にラテラルリンクを挟んで両側から揺動可能に支持しており、本願考案の実施例のものはフロントロアの突出壁30とリアロアの突出壁31の間にラテラルリンクを挟んで両側から揺動可能に支持しており、両者は共に前後壁の間にラテラルリンクを挟んで両側から揺動可能に支持するものである。

そして、当初明細書には、前記前後壁の間にラテラルリンクを挟んで両側から揺動可能に支持するもの以外のリンク取付部の構成についての記載はない。

b)手続補正によるリンク取付部の変更

上記手続補正により、リンク取付部の構成をフロントロアパネルまたはリヤロアパネルの少なくとも一方に一体形成されるとして、リンク取付部がフロントロアパネル及びリアロアパネルに一体形成されるもの(実施例に示されたような構成)以外にフロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものを含むように変更した。

c)リンク取付部の変更に対する判断

当初明細書にはリンク取付部をフロントロアパネル及びリヤロアパネルに一体形成するものは記載されているものの、他の態様であるリンク取付部をフロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものについては記載されていない。そして、当初明細書に記載された技術的事項の範囲によると、リンク取付部の構成は前後壁の間にラテラルリンクを挟んで両側から揺動可能に支持するものであって、この構成はフロントロアパネル及びリアロアパネルを用いて形成できるものであってフロントロアパネルにのみ、またはリアロアパネルにのみでは形成できない。また、リンク取付部の構成として、リンクを両側から揺動可能に支持するために、リンク支持用のブラケットを別体としてリンク取付部を一体形成する側の部材に固定するようなものは明細書の記載から自明とはいえず、かつ、本願考案の目的・効果と対応しないものである。以上のように、リンク取付部の構成として前記フロントロアパネルのみに一体形成されるもの及びリヤロアパネルのみに一体形成されるものは当初明細書に記載されておらず、かつ、自明な構成でもない。したがって、上記手続補正によるリンク取付部の変更は当初明細書に開示されていない技術的事項である。

3.むすび

したがって、上記手続補正は明細書の要旨を変更するものであり、実用新案法第41条の規定により準用する特許法第159条第1項の規定によってさらに準用する特許法第53条第1項の規定より却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

平成8年11月15日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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